第1回 隷書

初回は隷書を学んでいきたい。

隷書から始める深い理由はないが、隷書は基本をマスターすれば比較的書きやすいとされているため、まずは隷書からスタートすることとする。

一般的にその特徴は、次の通りと言われる。

  1. 字形は扁平
  2. 点画は水平垂直、等間隔が基本
  3. 強調画に波磔がある。(八分隷)
  4. 筆で記する場合は、逆筆蔵峰が基本

これを念頭に置いて、まずは、歴史を繙いていこう。

 

<歴史>

隷書は、篆書の速書(はやがき)書体として、春秋戦国時代に書かれた木簡・竹簡にその萌芽が見られるという。(秦隷)

明確に波磔(終筆にむけて筆を沈め最後に穂先から抜く筆法)が現れるのは馬王堆帛書(BC200頃)であるとされる。

一方、石に刻み込む刻字としての隷書は時代は下がり、後漢後期AD150年以降となる。

このギャップは、前漢では文字の統一は行われなかったため、国家が採用する正式な書体としては篆書が引続き書かれていたためという。それだけ、文化面における秦の影響は絶大なものがあったと思われる。

<臨書>

続いて、石碑に記された代表的な隷書を見ていこう。

まずは、4つの石碑に書かれたに同じ文字を比較してみよう。

(図1 隷書比較)

各々を比較すると次のような違いが浮かび上がるのではないか。

碑名 特徴
乙瑛碑

AD153

線が太い。横画、縦画とも同じ太さ、横画の間隔が狭い。背勢傾向。波磔は太さも長さも控えめ。背勢傾向

清代の書論には「雄古」とある。

礼器碑

AD156

線は繊細(強い線)。波磔の部分が相対的に太く、角張っている。横画・縦画も同じ太さ、横画の間隔は広い。

清代の書論には「変化」とある。

史晨碑

AD169

相対的に横画は太く、間隔は小さい。縦画は細い。かなり横に潰れている。強調画に細太の変化が大きい。波磔は長い。

清代の書論には「厳謹」とある。

曹全碑

AD185

相対的に横画は細く、縦画は太い。最も横長傾向。強調画に細太の変化が大きい。

波磔は「流麗」。向勢傾向

それぞれの碑を臨書した結果は以下のとおり。

(図2 臨書結果)

乙瑛碑
礼器碑
史晨碑
曹全碑

 

それぞれの特徴は出ているだろうか。

  • ・礼器碑は、細太の変化をもっとつけるべきだったか。
  • ・曹全碑は一部の波磔に角が出てしまっている。

以上の学習の結果を踏まえ、作品を仕立ててみた。

流麗な波磔を描く隷書は、漢時代末期に完成を見た後、漢の滅亡とともに忽然と書かれなくなる。

不思議な書体である。

<次回>

古隷および簡隷は後回しにして、第2回は、空海を学習していくこととする。

手島右卿氏によれば、空海の筆遣いには王羲之から顔真卿に至る要素がすべて加味されていると言う。やらない訳にはいかない。

(参考文献)

  • 書の宇宙 3 書くことの獲得・簡牘 石川九楊著 二玄社 1997
  • 書の宇宙 5 君臨する政治文字・漢隷 石川九楊著 二玄社 1997
  • 書学体系 碑法帖篇 第四巻 木簡 篆隷書 田中東竹著 株式会社同朋舎出版 1989
  • 天来書院テキストシリーズ 3史晨碑 6礼器碑 9乙瑛碑
  • これだけは学びたい書の基本 3篆書・隷書
  • 書道技法事典 阿保直彦篇 木耳舎 1988

 

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