第2回 臨書研究会 空海:風信帖

空海は、唐の末期の文化人たちとの交流を通じて当時の最高の書を学んできたと考えられている。そして、それらを咀嚼して自分の書として記されたものが空海の書といわれてる。したがって、空海の書にはそれ以前の書の筆遣いがすべて使われているということである。

 

風信帖は、最澄に当てた親書であるが、他の要人(嵯峨天皇など)にも読まれることも考慮して、書かれたとされている。その現れか、風信帳を構成する三通の手紙はそれぞれ違う特徴があるといわれる。「忽披帖」は全体に行意が強く重心を低めに設定した文字で書かれていて、「忽恵帖」は草書が多用され筆意の連続が最も滑らかといわれる。今回のテーマである「風信帖」は、本来共存しない書法が調和的に共存する不思議な書であるとのこと。

風信帖(狭義)の特徴

「風信帖」は、全体として行が微妙に左に傾いている。一文字一文字についても、次第に右上がりがきつくなり、筆意の途切れるところでもとに戻しているように見受けられる。
また、太い文字と細い文字、大きい文字と小さい文字が共存している

文字の特徴は、一言で言えば「線筆変化の多様性」と言えるとのこと

具体的には次の各点が挙げられる。

①「つく」「ひく」「ひねる」の連続体、線質の変化が自然に必然的に書に現れる。

②八面出鋒(穂の使わない部分はない):穂をねじった際、いままで空気のあたっていた部分を使い点画をひく。

③進行方向に筆管は倒れる。(陰陽俯仰法)

④「撥ね」は、筆を返して穂先を研ぎ澄まし、意を残して筆を抜く。

⑤側筆と直筆が交互に現れるが、始筆と終筆は側筆が原則。

⑥手首は自由に動かす。円運動が基本。

⑦結構は右肩上がりが強い。

⑧虚画を意識する。

具体的に字を見ていこう。

風信

風の一画目は、右上から入筆した後、穂をひねって起筆し、その反動で直線的に筆を引き下ろす。終筆は、突き当たったところで穂を返し、穂先を集めるように押し出す。二画目のそりは、横画をついたその反動で露峰(穂先は左)から中鋒、露法(穂先は上)と筆を返しながら一つひとつを丁寧に引き、最後に、来た方向とは逆の方向に押し上げながら穂先を集め筆を抜く。内部の横画は放射形をなす。それが身体的に自然なのだろう。なんとも魅力的な「風」である。
信も、旁の横画は放射形をなっている。最終画の最後は筆を止めた後穂先を整え跳ね出す。顔法に似た筆遣いである。

披之

赤丸部分が特徴である。 偏の二画目は、一画目から逆筆で入筆し加圧する。終筆部で穂先を集めながら穂を裏返し、裏返したところから三画目の始筆に向け撥ねだす。三画目は紙面を突き上げた後、右上に向けて撥ねる。

恵止

恵の外形は上記の通り。横画はかなり傾いている。字全体も右へつんのめっているように見えるが安定している。
止の三画は左上から入筆し、反らせるように筆をひねり、ついた後、その反動で右上がりの強い横画をひく。

観妙

上記①~⑧までの特徴が全て見受けられる。 観の最終画の撥ねは、他と同様穂先を集め意を込めて抜く。
妙の最終画は伸びやかに払っている。

観妙

ついて回ってつく円運動が顕著に見られる。
法の最終画はついた後、穂を集めはねだしている。この骨太な字体にも顔法の影響が現れているとされる。
體の一画目の入筆は風の場合と同様である。

因縁

因の国構えは左上を開けている。
二画目は外に力を加える形で丸みを出す。
他は例のついて回る円運動の連続である。

空海といろいろな意味で比較される最澄の書は晉唐の書法を忠実に守っているといわれる。それに対し、空海の書は上記書法に加え、篆隷、雑体書、飛白体、顔真卿の書風、古代インド文字などを習得し、自分のものとした上で、目的に応じて率意で書いているということである。また、最澄の書はほぼ完成された書であるのに対し、空海の書は、生涯を通じて変化し続けたと言われる。習得することはそう容易いことではなさそうである。

とはいえ、今までの学習を通じて作品を仕上げてみた。以下の通りである。

次回は、宋の三書家-蘇軾・黄庭堅・米芾-を取り上げる。さしあたり、先へどんどん進んでいく。また、戻ってくればいいのだから。

<参考文献>
「不滅の人 手島右卿と語る」 駒井鵞静編・著 雄山閣 平成元年5月20日 発行
「シリーズ 書の古典 27 風信帖・灌頂記 空海」 天来書院 2016年5月20日 発行
「書の宇宙 10 伝播から受容へ 三筆」石川九楊編 二玄社 1997年11月15日 発行
「墨 2,015 3月・4月合併号」 芸術新聞社発行
 

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