すでに旧聞となってしまったが、この8月から2ヶ月間に亘り名古屋で石川九楊展があった。書道を学んだ書籍の多くが氏の著書であったこともあり、氏の展覧会にはいつかでかけてみたいと考えていた。しかし、いつも会場は東京や京都であった。それが、地元名古屋古川美術館で開催されるとは。驚きであり、うれしい。しかも、主催する古川美術館は創設者の旧本宅を美術館の分館として所有しており、そこでも氏の作品が展示されるという。いわば、動態展示である。9月1日、日頃から敬愛する書友Aさんを誘い拝見した。
そこで、石川氏が太古から現代までの東アジアの書の歴史を踏まえ、現在到達している書きぶりがこの書なのだと感慨を新たにした。
彼の書は、細い画を基本としている。その形状はノイズの波形のように細かく揺れ、字は方形の中に押し込まれるように描かれるが、ときとして大きくそれを突き破り他の字の領域をも犯していく。点はしばしばグルグリと筆を押し込んで描かれる。そうして描かれる書は、象形文字のようでもあり、絵画のようでもある。スペインの画家、ジョアンミロを連想してしまったわたしの目には氏の書に色彩すら見えたような気がした。
午後からたっぷり友人と話しながら至福のときを過ごすことができた一日だった。